高野山真言宗 不動寺様 詩

after

感謝されて作られた詩 小さな奇跡

名もない寺の狭い内陣に 小さな仏像が祀ってある なんの由来も残っていない 扉も天蓋もない木の枠のお厨子の中で ひると言わず夜と言わず 積もる埃にまみれて 光背もお顔も肩も膝も あかがね色をしている その表情は衆生の苦しみを心配して 心に刺さったトゲを抜いてあげようと おっしゃっていると いつしか私は思うようになった 合掌する仏様はこの鄙の地を訪れて 難しい説法は分からない人々に こうすれば気が楽になると 教えてくださっているのだろうと 五年前 両親の供養にと 立派なお厨子を寄進してくれる人がいた それ以来 金箔の壁に歳月の影をおとしてきた きょう 仏像を磨く人が来た 阿弥陀如来像 不動尊像といっしょに この坐像も磨いてもらった ブルーシートを敷いて まず二種類の液体をかけ 最後にかけた白い液体が 毛布のように仏像を覆い しばらくすると 泡の雪崩が 汚れを包んで滑りおりはじめた 一瞬に 何百年の時を越えて 光背も仏像も台座の蓮の花びらも 作られたままに輝く 金色のお釈迦様が 目の前にあった お髭もたくわえられて 金色のお厨子の中 微笑して どんな苦しみも雲散霧消し 心の空は晴れわたり 合わす掌の中で 煩悩から生えた芽が 悟りの花を咲かせると お釈迦様の声が聞こえる

大変ありがたく身の引き締まる思いです。